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広島家庭裁判所呉支部 平成3年(少)442号 決定

少年 O・O(昭48.5.14生)

主文

少年を中等少年院(特修短期処遇)に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

1  平成3年10月13日午後、呉市○○×丁目×番×号所在の○○小学校校庭で中学生のAらに金銭をたかって帰宅途中、自己の先輩らに被害を訴えて加勢を頼んだ上記Aが、更に金ができた旨を言って少年を呼び戻しにきたのに応じ、同日午後4時45分頃、再び同校に赴いたところ、待ち受けていたB(当時16歳)ら数名から「ただで済むと思っているのか」等とすごまれたうえ、かねてから恐れていた暴走族のメンバーの名前を出されたりしたことから、この場だけでなく引き続き仕返しをされるのではないかとの恐怖の余り、とっさに所携の折り畳み式ナイフ(刃体の長さ約8.9センチメートル)を取り出して右手に持ち、上記Bを死亡させることがあってもやむを得ないとの決意の下に、同人の傍に駆け寄り、同人の背中及び胸部等を数回突き刺し、よって入院加療約1か月を要する前胸部・右大腿部・左肩・背部刺創、右血気胸、肺挫傷の傷害を負わせたが、同人らに激しく抵抗されたためその場から逃走し、殺害するに至らなかった。

2  業務その他正当な理由がないのに、同日同時刻頃、同校内東校舎教具室前廊下において、刃体の長さ約8.9センチメートルの折り畳み式ナイフ1丁を携帯した

ものである。

(適用した法令)

判示1の所為につき、刑法203条、199条

判示2の所為につき、銃砲刀剣類所持等取締法32条3号、22条

(処遇の理由)

少年は、小学生の頃から仲間外れで苛められることが多く、現在の高校(定時制)に進学してからは暴走族に関係のある先輩らからリンチまがいの暴行を受けることもあって、同人等に対し強い恐怖感を抱いていた。しかし、少年は、我慢し耐えるだけで、そこから抜け出す積極的な行動をとることができず、攻撃性を内向させていた。保護者も少年に対し真面目にして他から目を付けられないようにするようにと注意するという程度の消極的な対応にとどまっていた。

こうした成育歴から、少年は社会的適応力に乏しく、柔軟な行動選択をすることが不得手であり、これが本件のような過剰な短絡行動を引き起こす要因となったものと思われる。

少年にこれまで非行歴はなく生活の乱れも認められないが、少年は、これまで苛められてきたことの代償として本件を合理化するようなところも見受けられ、自己の犯した罪の重さを自覚させるとともに視野を広げた適応力を身につけさせる必要がある。また、少年は、被害者の仲間の仕返しを極度に恐れて心情が安定しておらず、保護者にもその点のしっかりした対応が期待できない状況である。

このようなことからすると、少年に本件の責任を自覚させ自立心を養わせるためには収容処分が相当であるが、少年の問題性からするとその立ち直りには短期の処遇で足りるものと思われ、少年に生活習慣の乱れはなく、規律も自主的に守ることができることから考えると、特修短期処遇が適切である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 廣田聰)

処遇勧告書〈省略〉

少年調査票〈省略〉

別紙 非行事実

被疑者は、

1 平成3年10月13日午後4時45分ころ、呉市○○×丁目×番×号○○小学校内東校舎教具室前廊下において、同人が同日午後3時30分ころ同校内で同○○中学校生のAから現金を喝取して○○高等学校付近を帰宅中であったが、同被害者等が「5000円たまったけ来てくれ」と呼びに来たことから再び右同校に赴いたところ、右Aらの先輩らに「ポケットから手を出してこっちへ来い。ただで済むと思っとるんか」などと文句を言われるなどから仕返しされる前に先にやらねば殺されると思い、護身用として持ち歩いていた刃体の長さ約8.9センチメートルの折りたたみ式ナイフを取り出して右手に持ち、B(当16歳)を殺害することを企ててやにわに駆けより、同人の背中及び胸部等を数回突き刺し、よって、入院加療約1ヶ月を要する前胸部右大腿部、左肩、背部刺創、右血気胸、肺挫傷の傷害を負わせたが同人らにはげしく抵抗されたためその場から逃走し、殺害の目的を遂げなかった

2 業務その他正当な理由がないのに、同日同時刻ころ、同校内東校舎教具室前廊下において、刃体の長さ約8.9センチメートルの折りたたみ式ナイフ1丁を携帯した

ものである。

鑑別結果通知書〈省略〉

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